かぐや姫の肌に思う
2017/5/25
 
『かぐや』『エアラス』『トーン』ネーミングが振るっている。
どれも聞いただけで、紙の表情、色目が想像しやすいと思うのは私だけだろうか。
紙を選ぶ時は、本の内容と紙の表情をマッチングさせる事に気をつかう。
特に読者が自分の本として手に取ってもらったときに、
なるほど、とうならせるような選択ができる紙をいつも探している。
2013年『かぐや』が出てきたときにはちょっと驚いた。
月のクレーターの表情を持つこの紙にぴったりの商品名なのだが個性が強すぎて、
使える本は狭いところに特定されてしまうだろうなと、いらぬ心配もしてしまった。
とはいえ、早く使って本の中で見たい紙だった。

『かぐや』は一見、月の表面を持つ。
ところが凝視し続けるとの小さなクレーターの集合は細胞組織にも見えてくる。
2013年8月、最初に使用する機会となった本はこの不穏な紙の表情を細菌に見立てた、
致死率100%の感染パニック小説になった。
楡周平 作 『レイク・クローバー』(講談社)である。
カバーは4cカラーだったので使えなかったが、
見返し:下弦90kg 扉:満月90kg を初使用し、
製本されてきたときには大正解と一人悦に入っていた。
『かぐや』と命名された方には申し訳ない結果だったかも……。

同年の9月と10月に紙の名前にピッタリの宇宙論本2冊の装幀依頼を受け、この紙の本領を発揮させる。

『宇宙論大全 相対性理論から、ビッグバン、インフレーション、マルチバースへ』(青土社)
表紙:たちまち 90kg 見返し:下弦 90kg 扉:満月 90kg

『無の本 ゼロ、真空、宇宙の起源』(青土社)
見返し:満月90kg 扉:新月90kg

誰が見ても異論のない本作りであると思う。

そして、とうとう本年5月刊の『生物圏の形而上学 宇宙・ヒト・微生物』(青土社)
今までカラーの印刷適性があまりなかったので使えなかったカバーにも『かぐや』を使用した。
■カバー:満月130kg 帯:満月130kg 見返し:満月90kg 扉:満月90kg、と
すべてを統一した本になった。
内容が宇宙と微生物を取り扱っている本でまさに『かぐや』で包むにふさわしい本であるからだ。

今まで、上記を含め11冊の本のどこかに『かぐや』を使ってきた。
他の紙に比べ、使用頻度の低い紙ではあるが
その個性は、この内容の本ならこの紙という作り手も読み手も満足させる紙である。
今後もその個性が故に、ますます活躍していってほしいし 使っていきたい紙である。